30 Jun, 2017

圧倒的な尖りと偏りが魅了する。プレミアが付けられたGraffiti ZINE『Carnage』

culture

ポピュラリティとはある一定の距離を置き、ピュアに「好き」を貫くことは、決して容易いことではない。ただ、それを全うすることで養われる偏りのあるオリジナリティこそ、人を強烈に惹きつける力を孕んでいる。

 

正体不明の集団


 
 

スクリーンプリントや、ハンドペイントで装丁されたこだわりと手作業を感じさせる表紙をめくれば、企業広告に用いられるような今どきの“整ったグラフィティアート”ではなく、黎明期に通ずる粗野でキッチュなグラフィティらしいタギングの写真が並ぶ誌面。それに抱き合わせられる風変わりで豪華な付録に、ひとたび完売すれば再印刷はないその希少性も手伝って『Carnage(カーネージ)』というグラフィティジンは、“知っているヤツは持っている”というステータスを保持させるような、いわばその道のプレミアがついたジンだ。

 

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グラフィティの生まれ故郷・NY発、毎号異なるテーマ、異なるグラフィティアーティスト/クルーとのコラボレーションで作られるCarnageは、現在までに9つの号が発売されている。第3号、4号ではめまぐるしく変わるNYの情景と共に、バフが激しい町の壁を前に息を潜めリヴィンしている現在のグラフィティシーンにフォーカス、最新号となる第9号ではセクシーなギャルズのボディに描かれたタグのポートレイト写真など、様々なひねりとアイデアでグラフィティをジンに綴じ込めた。

 

Carnageの公式ホームページを覗くと同誌だけでなく、キュレーションしたグラフィティジンや、1つ150ドル(約1万6,500円)もするスペシャルボックスも軒並み完売するほどの人気を誇る。

 

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さて、ここで気になるのは...このジンの作り手だろう。当該のホームページについても作り手については一切触れられていない、正体不明の集団。

 

ホームページにあるコンタクトフォームからダメ元でコンタクトをとってみると、この集団を率いる男でありジンの発行人、Ray Mock(レイ・モック)から話を聞くことができた。レイはバンクシーの1ヶ月を追ったドキュメンタリーブック『BANKSY IN NEW YORK(バンクシー・イン・ニューヨーク)』の著者としても知られており、NYや東京をはじめ、世界中のグラフィティを10年以上にわたって記録する写真家でもある(実際、Carnageから『Lost In Shibuya(ロスト・イン・シブヤ)』というタイトルの渋谷にフォーカスしたジンを2013年に発行しており、こちらも現在プレミア化している)。グラフィティにおけるカルチャー全てを愛し抜く男だ。

 

グラフィティジンなど腐るほどある中で、Carnageの何が人々を特別に魅了するのか。その理由として挙げられるのは、普段ストリートに残されたタグ以外で滅多にお目にかかることのできないアーティストたちとのコラボレーションにある。

 

box

 

犯罪行為という側面を持つグラフィティであるが故、匿名性を重んじ、これまで明るみに出ることを避けてきた、KUMA(クマ ※1)やMayhem Crew(メイヘム・クルー ※2)、LUSH(ラッシュ ※3)、ATAK(アタック ※4)など、伝説的なライターたちとの共作を可能にし、その共作が他に不可能なオリジナリティを創出するのだ。
※1 「KUMA WAS HERE」で知られる、フランス出身のグラフィティアーティスト。
※2 90年代後半よりNYとニュージャージーを中心に活動しているグラフィティクルー。若くしてこの世を去った「SACE」で知られる Dash Snow(ダッシュ・スノウ)とも関わりの深いクルー。
※3  “オーストラリアのバンクシー”とも形容される、オーストラリア・メルボルン出身のグラフィティアーティスト。
※4 グラフィティ界の若きキングと言われる、NY州バッファローを拠点に活動するグラフィティアーティスト。

 

ファンにとってユニークでスペシャルなものになっていればいい


 
 

なぜ、その無謀な制作が可能になっているのか、という問いに対して、レイの返答はシンプルだ。

 

“運、粘り強さ。そして高いクオリティと真摯さを、一緒に作る相手に約束すること。これだけだ。”

 

忘れてならないのは、先述した抱き合わせの付録。お約束のタグステッカーはもちろんのこと、コラボレーターとの入念なディスカッションの元で作られたハンドメイドTシャツや、特注のコンドーム(!)、エアフレッシャー、あるいは「Vandalism(バンダリズム )」に必携のマスクとグローブまで。本誌のおまけに付さない存在感で「付録欲しさに...」なんてファンも少なくない。

 

ところで、当の本人であるレイは、“プレミアが付くジン”の作者であるということには無自覚といった様子。

 

“プレミアって描写が正しいのかは定かじゃないけど、自分の好きなアーティストと共作できるなんてとても贅沢なことだよな。そんなコラボレーションを実現させてくれる『Carnage』が俺にとってスペシャルなように、ファンにとってユニークでスペシャルなものになっていればいいなと思っているよ。”

 

NYのグラフィティを保存し後世に伝えていく、という使命を持つというCarnage。インスタグラムでも写真サイトでも、グラフィティを見ること、共有することはできるが、「手で触れられる物として残したい」という思いがある。

 

レイのグラフィティに対する混じり気なしの熱量によって生み出される、数々のスペシャルなコラボレーションを集約した『Carnage』。模倣するには困難な、その強烈すぎる尖りこそ、多くのファンにとって他とないプレミアなのだ。

 
 

carnage
http://carnagenyc.com/

 

Photos: Courtesy of Carnage
Text by Stoop Kid

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